Researches

1.薬物応答性と薬物動態・薬物感受性関連遺伝子の関連解明

 いくつかの生体内薬物応答の律速と考えられる薬物動態に個体差があることはよく知られた事実ですが、当薬物動態学分野では個体間さらには個体内に観察される薬物動態や薬効の定量的把握、薬物動態関連遺伝子群の遺伝子解析を通して、医薬品の適正使用のための情報支援や個体差を考慮した個別適正化医療確立への提案を行っています。薬物療法における大きな問題点のひとつに薬に対する効果の違いが挙げられます。多くの医薬品において、患者ごとに「効果あり」「効果なし」「副作用の発現」といったように個体差が存在することが知られています。これら薬物応答性の個体差がCYP450等の薬物代謝酵素や薬物トランスポーター、受容体、薬効発現までに関与する様々なタンパク質をコードする遺伝子の多型(遺伝子配列の多様性)によって生じることが明らかになりつつあります。薬物動態・薬物感受性関連遺伝子の解析によりテーラーメード医療(個体差を考慮した個別適正化医療)が期待されます。
 テーラーメード医療実現のためにいかに示すような項目について遺伝子解析・探索を行っています。

 (a) 薬物代謝酵素の遺伝子多型・発現メカニズムの解明
 薬物動態において、薬物代謝酵素の影響は最も大きなものです。代謝酵素の遺伝子上に存在する変異が原因で、正常なタンパク質が生成されず代謝能が変化します。その結果、遺伝子変異を有する患者では、常用量の服用でも血中濃度が高く(あるいは低く)なることで、危険な副作用が発現したり、期待される薬効が得られなくなったりします。
 当分野では、CYP2C9*4 の発見、genotype と phenotype の不一致例、副作用発現要因としての遺伝子変異の特定などを報告してきました。また、重要な遺伝子(CYP3A4やMDR1など)については遺伝子多型のみならずエピジェネティクスの観点から遺伝子発現機構の解明に取り組んでいます。
 
 
(b) 薬物輸送タンパク質(薬物トランスポーター)の遺伝子多型と機能評
 薬物は肝臓や小腸などに取り込まれ細胞内の代謝酵素に接触することで初めて代謝されます。そのため、代謝を行う臓器への取り込みに関与する薬物トランスポーターの役割は非常に大きいものです。したがって、薬物トランスポーターの遺伝子多型や発現の個体差は薬物の体内動態や薬効に大きく影響します。
 当分野では、アニオントランスポーターであるOATP1B1(Organic Anion Transporter-Polypeptide 1B1)が脂質異常症治療薬であるプラバスタチンの体内動態に影響することを世界で初めてヒトで明らかにしました。その他にも、多くの薬物トランスポーターが生体内で重要な役割を果たしていることを明らかにしています。


2.日常臨床データによる母集団薬物動態構築

 
臨床の現場で用いられてる薬物について、日常の診断業務から得られる臨床データを利用した母集団薬物動態解析を行っています。このアプローチは、非線形混合効果モデル構築による推計的手法ですが、少数の観測値から薬物動態の変動要因(剤形、肝臓や腎臓の機能低下、性別、体重、加齢、薬物相互作用など)を定量的に評価できる利点を有します。得られた母集団情報はベイズ解析法により医薬品適正使用に役立てられます。また、医薬品臨床開発第U相以降の臨床試験における薬物動態解析ツールとしても有用です。現在は、変動要因に薬物代謝酵素・薬物トランスポーターの遺伝子多型を考慮したモデル、未熟児や新生児を対象とした母集団薬物動態解析、ベイズ解析プログラムのアップデートを進めています。

 母集団薬物動態/薬力学モデル解析 (母集団PK/PD解析は非線形混合モデル構築による推計的手法であり、少数の観測値から薬物動態/ 薬理作用の変動要因(剤形、肝や腎機能低下、性別、体重、加齢、薬物相互作用など)を定量的に明らかにできる利点を有します。また構築モデルに基づいたシミュレーションによる臨床効果の予測 (Modeling & Simulation; M&S) は医薬品開発を中心として、現在脚光を浴びており、米国FDA2009年に発布したEnd-of-Phase 2A Meetingsガイダンス中でも医薬品開発効率化、安全性担保において中心的な役割を担う手法であると期待されてます。さらに本母集団アプローチにより得られた情報は、ベイズ推計法の利用により医薬品の適正使用にも役立てられています。
 当研究室では従来より、母集団アプローチを用いた薬剤応答性の個体差要因の解明を行ってきており、近年においては高脂血症治療薬であるプラバスタチン (A, B)、抗炎症薬であるスルファサラジン(C)、について、以下に図示するような母集団PK/PDモデルを用い、その影響因子について定量的記述を行ってきました。


 現在は主に、薬物代謝酵素・薬物トランスポーターの遺伝子多型といった薬理遺伝学的因子の定量的評価、臨床データを基にした薬剤適正使用情報提供のための母集団PK/PD 解析を主に行っております。また、学生のみの勉強会を週に一回、製薬メーカー有志の方々を招いた勉強会 ( 福岡POPセミナー; 解析ゼミ)を月に一回行い、解析技術の向上に努めています。

  (A)

  (B)




  (C)
  

  Fig.1 Population pharmacokinetic (A) / pharmacodynamic (B) model of pravastatin and Sulfasalazine (C).

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