研究内容

様々な分子の動態を解析し医療薬学への貢献を目指す。

〇薬物の効果や副作用の個人差・個体内変動の原因を解析する

服用した薬物の体内濃度において薬物代謝酵素は重要な役割をしています。一般的に薬物は薬物代謝酵素で代謝され解毒されますが、一方で代謝活性化され毒性を示す薬物もあります。またこの薬物代謝酵素の遺伝子の変異が原因で、正常なタンパク質が生成できず薬物の代謝に異常を引き起こし個人差が生じることが知られています。その一方で、これら代謝酵素の発現には個体内変動が認められることから、同じ容量の薬物を服用しても体内における薬物濃度に差が生じます。そのため薬物の効果や副作用に投薬時刻に差が認められなどこれら機構について解析しています。現在、薬物の服用により生じる副作用(肝障害、腎障害)について研究を行ってます。

〇治療満足度の低い疾患(腎障害・がんなど)病態モデル動物を作製し、臓器・細胞連関(臓器-細胞間のシグナル伝達)の側面から病態に関連する新たな分子を探索・同定、さらに治療薬の候補化合物の探索をする。

近年の詳細ながんの病態解析により、がん組織は遺伝的に不均一な細胞群で構成され、これら遺伝的不均一性は浸潤・転移・再発などとの関連性が指摘されています。乳がん組織では、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性が高値を示す幹細胞様の細胞(がん幹細胞)と活性が低い細胞が認められます。がん幹細胞の腫瘍組織中の存在率は数%程度ですが、高い自己複製能、腫瘍形成能、高転移性能を併せ持ち難治性乳がんの治療標的として注目されています。またこれらがん幹細胞のがん組織中における動態に個体内変動があることが明らかとなっています。現在、これら機構をさらに詳細に解析して新たながん治療への応用を研究しています。

本来の薬物代謝酵素やトランスポーターの機能は、生体の内因性分子の代謝や輸送を担っています。よってこれら代謝関連分子 の異常は様々な病態に影響を及ぼします。慢性腎臓病 (Chronic Kidney Disease; CKD)は、腎機能が50%以下の状態が慢性的 に続く病態の総称を指します。本国における透析患者数は30万人に及び、8人に1人がCKDに罹患していると推定されています 。CKD治療は、薬物や透析による対症療法がメインなる一方で他の二次的疾患を併発するため様々な薬物療法が行われるが、腎 障害による薬物代謝能の低下が生じるため、薬物療法に細心の注意が払われています。これまでに、肝臓の薬物代謝酵素の発現 量や活性が健常時と比較して低下しビタミンAの生体内での蓄積が生じてさらに腎臓や心臓など他臓器の炎症や機能障害を増悪す るなどの新たな病態悪化機構を明らかにしています。現在、これら機構をより詳細に解析し新たなCKD治療(創薬・育薬)研究 をしています。

〇ワクチン製剤などのLipid nanoparticle (LNP)の開発。

COVID19などの新興感染症の対策としてRNAワクチンが開発され認知度が急速に高まった。このRNAワクチンの製剤に使われている技術としてLipid nanoparticle (LNP)がある。現在、新たな素材を用いたLNPを作製し新興・復興感染症に対する新たなワクチン製剤の開発をしています。

〇生体機能を操作する医療機器の開発。

様々な医療機器が医療を支えている。これまでの研究で微弱電流刺激が遺伝子の発現に影響を示すことを明らかにしてる。現在、新たに作製した微弱電流刺激装置を医療や農業に利用するための研究をしています。

〇クライオ電子顕微鏡によるタンパク質構造解析

2022年、九州大学大学院薬学研究院にクライオ電子顕微が導入されました。現在、クライオ電子顕微鏡が設置されている構造解析センターの管理運営を行いながら、創薬シーズにつながるタンパク質の構造と化合物の結合などを解析し、アカデミア創薬の加速化に取り組んでいます。